日時:2023年2月24日(金)18:00-20:30 会場:YAU STUDIO 主催:小峰資料研究会、JSPS科研費22J40018 協力:一般財団法人小峰研究所、東京大学死生学・応用倫理センター、マインドスケープス東京、ウェルカム・トラスト、有楽町アートアーバニズムYAU

「サロンZ」は、マインドスケープス東京の活動について様々な角度から考える場を提供することを目的に開催しました。

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本ワークショップは小峰研究所が所有する「王子脳病院」の資料をもとに、参加者とともに「病」を歴史的・社会的な文脈から再考することを目的に行われた。

1901年に東京の滝野川に設立された「王子脳病院」は、1945年の空襲で全焼するまで、日本の精神病治療の最先端を担う医療施設のひとつとして知られる。王子脳病院のアーカイブズ資料には、当時の「患者」たちの記録が精神科医のカルテ(病床日誌)として、看護師たちの看護日誌として、あるいは本人の手記として、複数の視点から残されている。これらの資料をもとに、当時何らかの精神の病と診断を受け入院していた人たちが、どのように病院で過ごし、いかに生を歩んでいたのかを、ワークショップ形式で参加者の方々と一緒に考えた。そこから浮かび上がってきたのは、「病」が絶対的なものではなく、その時代や社会に大きく左右される様であり、それらをアーカイブズ資料を通じて体感することで、現代を生きる私たちの「当たり前」を考え直すきっかけにもつながった。

ファシリテーター: 清水ふさ子(東京大学人文社会系研究科) 三原さやか(慶應義塾大学) 金川晋吾(写真家) 宝月理恵(お茶の水女子大学) 登久希子(日本学術振興会)

ワークショップの流れ 冒頭に本ワークショップがイギリスのウェルカム財団による《マインドスケープス》の一環であることを簡単に説明した後、アーキビストの清水ふさ子から小峰研究所が所有する資料の紹介、アーカイブ学の基礎について説明があった。

その後、ウォーミングアップとして、三原さやかを全体のファシリテーターとする少人数グループワークが行われた。初めに、今回のワークショップが「正解」の導出を目的としてないこと、現代の精神医療の知識・慣習や現代社会の倫理観をもとに過去の記録をジャッジしないこと、今回の少人数グループを構成する各種の専門家から素人までの年齢もさまざまな参加者の多様性をグループ討論で活かしていくことの重要性が強調された。そのうえで、それぞれのグループが担当する事例の冒頭部分の入院時記録を読み、Chief ComplaintやHistory of Present Illnessが誰のナラティブとして記録されているのかを分析し、その背景にどのような社会的・個人的な文脈があるのかを自由に想像して討論した。

後半は5つのグループに分かれて、配布された症例誌に各自が目を通す時間を設けた。ここで特定のテーマを設けなかったのは、参加者全員が初めてみる資料のどこに注目し、そこから何を読み取り、想像するのか、各参加者に委ねるためだ。そうすることで、全く異なる背景をもつ参加者がそれぞれの感性や知識で能動的にワークショップに取り組むことができるようになった。その後、資料から何を読みとることができるのか、そこに取り上げられている人物が、当時の精神病院とはどのような場であったのか、どのような社会的な背景があったのかをグループ内で話し合い、その後グループの代表者が全体共有を行った。症例誌が書かれた時代の社会状況に深く結びつけて考える人がいたり、医療従事者の勤務状態に注意を払う人がいたり、あるいは「患者」と家族の関係に想いを巡らせる人がいたり、どのような部分に焦点を当て、そこから何を読み取ることができるのか、さまざまな可能性が現れた。

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参加者の感想・コメント(自由記述、抜粋):

・アーカイブズが大切であることを深く感じるワークショップでした。いま現在の常識、あるいは正しいと思われていることは、もしかしたら正しくない可能性がある、ということを知的に理解し、現在の実践をいったん相対化する視点、知的謙虚さの必要性を過去の出来事、資料から学ぶことができるからです。